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東京地方裁判所 平成3年(ワ)4203号 判決 1992年9月22日

原告

黒木伸吾

原告

高橋富美男

右原告ら訴訟代理人弁護士

柴田五郎

被告

株式会社アーバンコアオート

右代表者清算人

岸邦江

被告

野田隆司

右被告ら訴訟代理人弁護士

田岡浩之

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告黒木伸吾及び原告高橋富美男に対し、それぞれ金六五万七五六五円及びこれに対する平成三年四月一日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

被告株式会社アーバンコアオート(以下、「被告会社」という)は、中古外車の仕入販売を業とする会社であり、被告野田隆司(以下、「被告野田」という)は、右会社の代表取締役の地位にあった者である。

2  雇用契約

原告らは、平成二年九月一五日、次のような条件でいわゆる契約社員として被告会社に雇用され、以来中古外車の仕入・販売の業務に従事してきた。

最低保障額 一か月金一五万円

販売歩合 純利益の四〇パーセント

買取歩合 一台につき金二万円

但し、賃金総額は金七〇万円(手取り金五〇万円)を下回らない。

販売ノルマ 一か月八台、但し、準備期間もあるので、当初から一か月八台とはせず、六か月で四八台とする。

期間 平成三年三月一五日まで

3  被告会社の債務不履行

(一) 前記のような労働契約を締結した場合、会社は社員に対し、次のような具体的な先履行ないし平行履行の債務を負っているものというべきである。

(1) 販売用の中古外車につき、十分な数、質、種類の車の仕入及びその展示をする。

数についていえば、それは少なくとも月間販売目標数の二倍である一六台以上は、常時展示されていることを要する。

(2) 仕入れ及び販売を周知させるための適切な媒体・方法・回数による広告をする。

少なくとも複数の業界紙・誌に、一か月二回程度の仕入・販売広告をしなければならない。

(3) 少なくとも、ノルマないし目標を達成し得るよう、仕入及び販売等の営業方法につき、社員を適切に教育・指導・援助する。

(二) しかるに、会社は、前項の諸債務の履行をしなかった。

すなわち

(1) 被告会社は、原告らの販売実績が一〇月は二台、一一月は一台、一二月は五台と、ノルマ・目標とされた一か月八台(六か月四八台)のペースには遠く及ばない状況であったにもかかわらず、仕入・販売の増進策についての教育、指導、援助を全くしなかった。

(2) 被告会社は、平成三年一月初旬以降、原告らが仕入話しをまとめてきても、資金不足を理由にその仕入を実行させないようになり、また、広告・宣伝も全く行わないようになり、同月中旬以降は資金不足を理由に営業縮小し始め、同年二月三日には株主総会の決議により会社を解散(同月五日登記)して、営業は事実上中止・閉鎖と同じ状態に立ち至った。

(3) 原告らは、平成三年三月一五日まで、被告会社に対し、労務を提供したが、被告会社は、原告らに対し、前記最低保障額の賃金を支払ったのみで、歩合給の支払をしなかった。

4  損害賠償

会社の営業が本格化して軌道に乗っていた平成二年一一月二六日から平成三年一月二五日までの六一日間の原告らの歩合給は、次のとおり合計金一六三万七二〇四円、一人当たり金八一万八六〇二円であり、一人当たり一日の平均賃金は金一万三四一九円である。

平成二年一二月分 金七一万七二〇四円

平成三年 一月分 金九二万円

合計金一六三万七二〇四円

よって、原告らは、被告会社に対し、平成三年一月二六日から平成三年三月一五日までの歩合給並びにこれに対する支払期の翌日である平成三年四月一日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

5  被告野田の損害賠償責任

被告野田は、被告会社の代表取締役をしていたが、取締役は新たに会社を興し、あるいは既存の会社や営業の拡大を企画するに際しては、資金繰り、仕入れ状況、販売状況、人的・物的設備の過不足状況等十分な調査・研究の上に方針を決定し、仮にも通常予測し得る経済事情の変動のごときによって、会社の運営に支障を来し、もって会社債権者に不測の損害を及ぼしたりしないようにするべき注意義務(会社に対する善管注意義務)がある。

特に、本件のように、従前社員が一人程度の実績しかなかったところに、新たに原告ら二名の増員をし、しかも、少なくとも六か月と期間を限り、固定給一五万円、歩合給四〇万から五〇万円と付言したような場合には、少なくとも右六か月間は企画したとおりの通常の営業を継続し、会社の債権者たる原告らに不測の損害を与えないようにすべき注意義務がある。

しかるに、被告野田は、被告会社の営業を拡大するに際し、充分な資金繰りを行わなかったために、営業を拡大した四か月後の平成三年一月早々に資金ショートをきたし、外車の仕入れ・広告・宣伝共に不可能となり、同月中旬より営業を縮小し、翌二月三日会社解散・営業の事実上の中止・閉鎖のやむなきに至ったものであり、被告野田の右資金繰り計画の安易・軽率・不十分さが、被告会社に対する任務懈怠・重過失に該当することは明らかである。

したがって、被告野田は、商法二六六条の三により、原告らが被った損害を賠償する責任がある。

よって、原告らは被告野田に対し、前記得べかりし歩合給相当損害金六五万七五六五円及びこれに対する履行期の後である平成三年四月一日から右支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は否認する。

3  同3一は争う。

被告会社が原告らに対し、原告ら主張の債務を負う法律上の根拠はなく、したがって債務不履行も存在しない。

4  同3二のうち、原告らの販売実績が一〇月は二台、一一月は一台、一二月は五台であったこと、平成三年一月中旬以降資金不足で営業を縮小し、同年二月三日には株主総会の決議により会社を解散した(登記は同月五日)こと、被告会社が原告らに対し、平成三年三月一五日までの最低保障額の賃金は支払ったが、歩合給の支払いはしていないことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

被告会社が原告らに契約の更新をしない旨通知した平成三年二月一三日頃には、被告会社には一〇数台の販売用の自動車があり、一か月間の営業継続は可能であった。

5  同4の事実は否認し、主張は争う。

仮に、原告らに逸失利益があったとしても、最大でも原告ら主張の五か月間の歩合総収入である一八八万七三二二円の五分の一である三七万七四六四円が原告らの一か月間の平均歩合であり、逸失利益も右金額を超えるものではない。

6  同5の事実のうち、被告会社が平成三年一月中旬から事業を縮小し、翌二月三日に解散した事は認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

三  仮定抗弁

(相殺)

1 原告らと被告会社との間の契約によれば、原告らの歩合給(販売歩合)は純利益の四〇パーセントであったのであるから、歩合給を算出するについては、販売価格から、販売車両の仕入費用、整備費、修理費等を控除しなければならないところ、平成二年九月一五日から平成三年二月一三日までの間に、販売歩合給として被告両名に支払った金額は九台分合計金一八八万七三二二円であるが、右は整備費及び修理費を控除しない仮払い金であった。

2 右期間の車の販売金額合計は二五九五万円であり、仕入金額は二一七一万円、仮払時点で判明していた修理費等の金額は合計二九万八六九五円、さらにその後支払った整備修理費等は一〇九万一三四四円であるから、本来の純利益は合計二八四万九九六一円となり、その四〇パーセントである一一三万九九八四円で本来原告らに支払われるべき歩合給の合計となる。したがって、被告会社は、原告らに対し、過払いの合計七四万七三三八円(各原告はその二分の一ずつ)の返還請求権を有している。

3 被告会社は平成三年一〇月四日の本件第六回口頭弁論期日において、予備的に、被告会社の原告らに対する右過払金返還請求権と原告らの被告会社に対する損害賠償請求権と対等額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告らに支払われた前記金員が仮払金であったことは否認し、その余は認める。

2  同2のうち、未払いの整備費用及び修理費があったことは否認し、主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する(略)。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。そして、(証拠・人証略)の結果によれば、原告らは、平成二年九月一五日に被告会社との間で、最低保障額一か月一五万円、販売歩合純利益の四〇パーセント、買取歩合一台につき二万円、販売ノルマは一か月八台、但し、当初は六か月で四八台、期間は平成三年三月一五日までとするとの条件で雇用契約を締結し、以後被告会社において中古外車の仕入・販売の業務に従事するようになったことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。なお、原告らは、毎月の賃金総額は七〇万円(手取り五〇万円)を下回らないとの合意がなされた旨主張するがこれを認めるに足る証拠はない。

二  ところで、原告らは、前記契約の下においては、被告会社は原告らに対し、販売用の質量共に充分な台数の車を仕入・展示をし、適切な広告をし、原告らが販売実績を伸ばせるよう教育指導する等の債務を負うと解すべき旨主張する。

しかしながら、特別な合意があれば格別、そうでない限り、右契約からは被告会社が原告らに対し、被告主張のような債務を負うとは到底解されないところ、本件においては右特別な合意があったと認めるに足る証拠はない。

したがって、原告らの右主張は理由がなく、その余の点につき判断するまでもなく、被告会社に債務不履行責任があるとは認められない。

三  次に被告野田の損害賠償責任について検討するに、被告野田が当時被告会社の代表取締役であったこと、被告会社は平成三年一月中旬以降は資金不足を理由に営業を縮小し始め、同年二月三日には株主総会の決議により会社を解散(登記は同月五日)したことは当事者間に争いがない。

ところで原告らは、代表取締役には、資金繰り、仕入状況・人的・物的設備の過不足等充分な調査・研究の上に方針を決定し、通常予測し得る経済事情の変動のごときによって、会社の運営に支障を来し、もって会社債権者に不測の損害を及ぼさぬようにすべき注意義務があるとした上で、本件においては、被告野田の資金繰り計画が安易・軽率・不十分であったことが資金不足を生じ、ひいては右解散に至る原因であり、会社に対する任務懈怠・重過失に該当すると主張する。

しかしながら、確かに、被告会社においては中古車販売の営業を始めてから四か月後に資金不足を生じているが、そのことから直ちに資金繰り計画が安易・軽率・不十分であったとすることはできず、具体的にどのような資金繰り計画があり、それがどの点で安易・軽率・不十分であり、重過失に該当するのかを、原告らにおいて具体的に主張立証しなければならないところ、この点についての主張立証がなく、したがって原告らの被告野田に対する損害賠償請求もその余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  よって、原告らの本訴各請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高田健一)

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